対戦カード 第3弾
賢祥堂美術PRESENTS【STRONG STYLE HISTORY 】対戦カード 第3弾
《長州力にレスラー失格の烙印を押された男vsマット界から忘れ去られようとする男》
それは、とある巡業中の広島県呉港発〜愛媛県松山港行きのフェリーの船内での出来事でした。
いつもは明るく競馬の予想紙を片手に〜上井さん、明日の競馬は何を買いますか?〜って、気さくに話し掛けて来る男が、その日は肩を落として伏し目がちに自分のところにトボトボと歩いて来ました。
『 どうしたん?コウちゃん!元気無いやん? 』
『参りました! 長州さんに〜おまえ、もうレスラー辞めろ!と言われました!』
呆気にとられて返す言葉も見つかりませんでした。
その時の事は、今でもコウちゃんと会う度に思い出します。そのコウちゃんと自分が呼ぶ男は《 高岩竜一 》選手でした。
確かにコウちゃんは、この頃大きな壁に当たったように毎日毎日試合をしては、コウちゃんの試合がお客さんのトイレタイムになるような感じでした。見兼ねた現場監督である長州さんが、止むに止まれずに発したであろうその言葉は、簡単に否定出来るものではありませんでした。
コウちゃんもすっかり弱気になって、もう辞めます!みたいな発言をするので、懸命に叱咤激励した記憶があります。
そんなコウちゃんの試合を、去年の天龍さんの大阪ラストマッチの時に観戦して、自分の知っている現役時代のコウちゃんよりも若々しく活き活きとした余裕の試合運びに、試合後に会って褒めちぎったものです。
そのまた後に、城東区民ホール( 今は使われてません )のFREEDOMさんの試合で藤田ミノル選手の表敬に行った時( 結局は藤田ミノル選手には会えませんでした )に、コウちゃんと出くわしたので、ベンチに座って少し話をしました。
『 コウちゃん!この前の天龍さんの時の試合〜俺の知ってる時のコウちゃんよりもずっと若々しく映ったけど、ますます磨きがかかったね!スタミナも抜群だね!』
『 いや、最近試合でチカラを抜く事を憶えたんで、それでガンガン行けるんですよ!』
チカラを抜く〜決していい加減に試合をするという意味ではないのです。試合に緩急を付けるため、フィニッシュの爆発力を高めるために試合中に“ タメ ” を作るのです。それをコウちゃんが長年のキャリアの中で掴み取ったのです。
コウちゃんの試合の若さの秘訣はここにあったのです。
私の眼には、コウちゃんのレスラー人生で一番に素晴らしく見えました。
そしてそのコウちゃんの対戦相手は〜
ある日の昼下がり、まだ太陽が高いうちに城東区新喜多( しぎた )の寝屋川沿いの道を、ウインドブレーカーに身を包んで、虚無僧のように黙々と走り続ける男!
その男こそが、高岩竜一選手との対戦を快諾した選手なのです。
かつては大阪プロレスの王者であり、新日本プロレスの後楽園ホールの田中稔戦で、新日本プロレスファンの拍手喝采を全身に浴びた男であり、K - 1 のゴールデンタイムのリング上に颯爽と立ち向かった男!
ある時は京橋の『 ミスタードーナツ 』で出くわし、蒲生4丁目の『 マクドナルド 』 で、声を掛けても無視され、世界的な女性指揮者の西本智実さんの弟さんのお店で待合せして、ママチャリで乗り付けた修行僧のような男!
この男こそが高岩竜一選手の対戦相手『 村浜武洋 』選手です。
〜村浜はもうアカンよ!村浜は試合中にファックアップするよ!村浜はパンチドランカーやからもうダメよ!〜
城東区新喜多から見えなくなってどれくらい経ったのでしょう?誰がなんと言われても、自分の上井駅の試合に喜んで参戦してくれた好漢を、自分は忘れた事がありませんでした。
京橋のミスドであった時は文庫本を読みふけっていました。隣に腰掛けて〜蒲生のマクドでシカトされたんやけど!って言っても、そうですか?って悪気なく答えたあの村浜武洋選手を、自分の眼で、自分のリングでもうダメなのか?観てみたいのです。
あれだけの精進を日々怠らなかった男にもう一度スポットライトを!!ただその一心で携帯に電話しました。
試合日の金曜日は仕事が入っていたのですが、会社の社長さんの承諾が得られて晴れて参戦してくれるのです。
確かに電話口の向こうには、滑舌の悪くなった村浜さんが居ました。それでも自分は村浜さんを使いたい!村浜さんの再びの勇姿が観たくてブッキングしました。
休憩明けの、新間さん、初代タイガーマスク、初代ブラックタイガーのイベント終了後の試合はこの試合です。
この試合を決める時、コウちゃんにこう頼みました。
『 コウちゃん!2日の試合だけど、村浜武洋選手だけど頼むね!コウちゃんなら、どんな選手でも試合を成立させてくれると思ってるから!村浜選手でイイ?』
『 村浜選手〜いいじゃないですか!任せて下さい!
俺がしっかりと受け止めますよ!』
長州力に失格の烙印を押された男の頼もしいひと言が、この試合を決定させました。
上井駅で、巨漢・吉江豊選手と真っ向勝負した村浜武洋選手の、再びの覚醒を夢見ています。
私の心の中の《 ドリームカード 》なのです。
上井 文彦
高岩竜一-Wikipedia
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E5%B2%A9%E7%AB%9C%E4%B8%80
村浜武洋-Wikipedia
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%91%E6%B5%9C%E6%AD%A6%E6%B4%8B